「結局さ、あんたも逃げたんだよ
だからさ、実家で暮らす弟夫婦に、なぁんにも言う資格は無いってわけさ
たまにやってきて、具合の悪い母を見て、怖い顔して、母を病院へ連れて行ってやれってさ
アタシは、弟夫婦には何も言ってないって言うけれど
あんたの話聞けば、あんたがどんな怖い顔して
ちぐはぐな服着て現れたかぁさんを見たのか
きれい好きだったという、母の部屋がとっちらかってる様子に足がすくんだのかは
赤の他人の私にだって想像はつくよ…」
「そうですよ、だからアタシは何も言わなかった
本当なら、アタシがあのまま母を病院につれてゆけばよかったのかもしれない
それでも、母を嫁ぎ先へ連れて帰ることも
弟夫婦に、世話になってありがとうと、小遣いの少しも置いてくる甲斐性もない
自分がただただ情けないのだと言うことは
わかっているのです…」
そう言って、電話の向こうの彼女は涙を飲み込んだ
「お金を稼ぎな、お金があれば、多くのことを解決してくれる。
親を連れて逃げてくる勇気も、あったかいグループホームを探し出して
安心できる暮らしの場を用意してあげることも
親と一緒に暮らしてあげることも出来る
弟夫婦に、十分な気持ちを差し出すことだって出来るさ…」
彼女と出会って、もうどれほどの年月が経ったのだろうか
自分に自信がなくて、自分が嫌で
人一倍の怖がりで….
それでも、前に進んでみることを選んで生きてきた彼女
嫁ぎ先の両親の介護と
出てきた実家の親の介護と
その意味としんどさが
全く違うのだということは
直面してみなければわからないこと
先輩たちが親の介護に、もだえ、苦しみ、一喜一憂する姿を
眺めてきた年月
苦しんで、苦しんで
それでもまた上を向いて立ち上がってゆく姿が
彼女にはどう映っていたのだろうか?
しっかりせい!
親を守ってあげられる年月は
もう、わずかしか残されていない
死ぬ気で、金を稼ぎあげろ!
これが、どん底を這いずり回って生きてきた
私達、先輩からのエール
死ぬ気で、やりなさい
もう、親に還せる時間は
あなたが思っているよりも、ずっと短いのだから。