夏休み、訪問入浴の仕事先に、小学生の娘さんを連れて行った様子を、フェイスブックにアップされている看護師さんかいらっしゃった。
それを受けて、娘さん連れの訪問入浴ケアを受けられた、息子さんの入浴の様子をアップされたママのフェイスブックを目にした。
これだよなぁと、思った。子供の教育って、当たり前に親が淡々と働く姿を見せる事。ホリエモンが言っていた。今の子供の教育に、昔の軍隊教育を引きずった学校は要らないと。
今、自分の過去を振り返っても、子供時代が最も辛かった。皆に合わせる、決まりを守る、幼い学校時代が。
人は、生きれば生きるほど面白くなるよ。だから、死なないで欲しいと、子ども達の事を思う。人生は楽しいよって。
「こっちに来てごらん。まるさんは、もうすぐ死ぬんだよ。まるさん、怖くないよ、大丈夫だよって言ってあげて。」親の職場についてきた少年を、私は手招きした。
少年はコクンと頷いて、いつも障子ごしに見ていたまるさんのベットに近づいた。
手を握ってご覧。まるさん、大丈夫?って声をかけて。そして、皆で唄をうたってあげよう、何がいいかなぁ?今、学校で何を習ってる?それを一緒に唄おうか?海は広いな大きいな♪
彼らの成長を数年、車椅子やベッドの上から見守ってきたまるさんの瞳が穏やかなものになる。
死にゆく人のそばに寄り添う子ども達。
翌日、彼が一番に覗き込んだまるさんの部屋に、もう、彼女の姿はない。少年は、何も聞かない。
まるさんね、昨夜お星さまになったよ。綺麗だったよ。
別の朝の事、その日少年は今日も学校に行きたくないと、母の後について、トボトボと出勤してきた。
母の職場の、閉められた障子の向こうでは、息を引き取ったばかりの和夫さんを送る支度が行われていた。
お湯を運んだり、シャンプーやドライヤーも持ち込まれ、どのネクタイが似合うかと評議され、カッコイイとか素敵だとかという言葉の飛びかう障子の向こうが気になる少年は、何度も障子の隙間から顔を覗かせ、ヘルパーである母にたしなめられた。
「君もいっしょに和夫さんの支度する?」そう問いかけると、彼はコクンと頷き、障子の内側に招かれた。
エンジェルケアを手伝う小学生、この少年は将来、何者になるのだろうかと思う。
「和夫さんの手を抑えて、ワイシャツの袖をとおすよ、手がブラッとなっちゃうから、気をつけて支えてあげて…」
真剣な瞳で、彼は賢明に和夫さんの旅立ちの支度を手伝った。
彼が今日、学校へ行かなかった理由はこうだった。
担任の気にそわない、少年の行動はいつも教室では注意の対象だった。
自分が、自分で有る事を、なぜ指摘されるのかが、彼には納得行かず、どうしても今日は母の職場や、祖父母の畑で過ごしたかったのだ。
担任からは、こんな日は何度も電話が入るという。オタクの息子は、一体、学校に来ないで何をして過ごしているのかと。
母は答えるという。
「息子は今日一日を、真剣に、大切に過ごしました…」と。