ろくじろうの見学に来た彼らは、
どんな場所で毎日が繰り広げられているのかを
物見遊山で眺めるのではなく
どんな年寄りが居るのかを確認するためでもなく、
彼らを楽しませる事に
全力を尽くしてくれた。
しずさんは、数カ月前にひょんなことから片足を突然失った。
泣き言を言わず、いつも笑顔で、
常に前を向いて生きている。
きっと、これまでの人生の苦労に比べたら、
突然失った片足は、
屁でも無いのだろう
(そんなはずないよね、しずさん…)
自分の足になった車いすにちょこんと座り、
突然やってきたおもしろい若者たちのグローブを受け取り
照れくさそうに、
満面の笑顔でボクシングをやってのけた。
翌日、しずさんを送って来た娘さんが
ケアマネに涙ながらに囁いた。
母がとうとうボケてしまいました…
こんな、わけのわからないことを言い出して….
「今日な、グローブってあけぇのを手につけてな
ボクシングってやつをみんなのメェでやっただよ。
生まれて初めてだったぁよ。
おんもしれったぁなぁ…」