親を超える時

私ね、子供の頃に母が突然居なくなっちゃったんです。夜、布団に入っていると、姉と兄と父の三人の話し声が聴こえてきたんです。まだ、幼かった私を施設に預けようかという相談をしている話し声が。

でも、姉と兄は言ったんです。自分たちが妹を守るから、自分たち兄妹でちゃんと暮らすからと…。それから父は出稼ぎに戻り、自分たちは小さな家に引っ越して、子供三人でのくらしが始まったんです…

その後しばらくして、頼りのお父さんが亡くなってしまった事、兄妹だけで父の葬式を出した事、そんな時にも、行方不明のお母さんと、連絡がつかなかった事。

私は、以前アロマセラピストとして私の仕事を手伝ってくれていた彼女から、そんな生い立ちを聞いていた。彼女はその頃、吐きながら仕事をしていた。

「でもね、今、その母が再婚して、子供も産んで、幸せになったんです。私が母の結婚相手に、有難うってプレゼントを渡した日、義父はものすごく喜んでくれたんです。だって、母を幸せにしてくれたのだから、お礼を言って当然でしょ?」

今日のアロマ講座後に、お昼を食べながら皆に聞かせてくれた彼女の過去の話。私は驚いたように彼女の話に耳を傾けている仲間に向かって、こう口を挟んだ。

「この娘はね、親を超えてしまってるんだ。多くの人が、親からこんな事を言われたとか、こうしてもらえなかったとか言い続ける中、彼女は自分の親の魂年齢を超えてしまっているだよ…」

同年代の仲間達が、その話をどう受け止めたのかは分からない。

「でもさ、みかちゃん、随分沢山の難しい課題を今世に持ってきたもんだね。」

「本当ですね、明日が主人の命日なんです。」そう言ってみかちゃんは笑った。そっか、明日で丁度一年なんだね。

「良く頑張って一年生きてきたね」「はい、本当にそう思います。」

まだ幼い、この子達を残して逝かなければならなかったパパの悲しみ。アロマオイルとミネラルを使って、病院で看取った夫。

息子を失って動揺する夫の母をも、最後までみると決意した嫁としての自分。

「お姑さんが息子を失った哀しみに対して、時々パニックになるんです。そんなときはアロマタッチをしてあげると、お姑さんの精神状態が5日位は安定するんですよ…」

幼い男の子を二人、大好きなドテラで収入を得て育てるのだと決めてから一年。まだ、結果につながってはいないけれど、彼女の覚悟はブレない。

なぜ、自分がドテラを人に伝える事を生業とする決心をしたのか?オドオドと、同じ話を繰り返していた頃の彼女はもう居ない。

仲間達が口にする夫への不平、優しくなれない妻である自分を語る時、彼女はうなずきながら、いつも、口にする。「大丈夫ですよ、必ず仲良くなれるから。必ずしあわせになれるから…」
人と自分を比べない。

決して妬まない。
自分自身に負けてはいない。

彼女の夫の腹水が溜まった末期時の写真を、明日からは顔をも公開させてもらって、私は全国を回る。

ゆうさん、みかと子どもたちは、一年、前を向いて歩いて来ました。そろそろ、彼女が夢をその手で掴んでもいい頃ですか?

ゆうさん、今も側で見守ってくれている事でしょうね。

六年生のおにいちゃんが、保育園児の弟をおんぶする、ママの一番好きな写真。

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