自分たちの行う介護の質は…

「私を一番先に選んで下さり、私の手を取りマッサージしてくれたこと、とても感謝しています」

岐阜でのセミナーの前日、訪ねたまめ屋さんには、十人位のおばぁちゃんと、ひとりのおじぃちゃんが、昼食後のまったりとした時間をすごしていた。
空いている椅子に腰をおろし、さて、この方達は、アロマオイルでマッサージなんぞと言うものを受けいれてくださるのだろうか?と、様子を伺った。

「手か足をマッサージさせていただいてもいいですか?」そんな、突然の来客の声かけに、人生の大先輩達は、ピクリ!と反応した。
ソファーで横になり、怪訝そうに様子を伺っていた方も、背中を正し、その手足を差し出そうとした。

そっか、みんなマッサージ好きなんだ。みんな、しんどい体と心を相棒に、今を、ここに居るんだ。
「そんな自分のシンドイ相棒に、あんたは手を当ててくれるのかい?」人生の大先輩達が、そう感じたのだとわかった。

「手にしますか?足にしますか?」精油を握る私からのそんな問いかけにすかさず、いつもこの方達と日々を共にしているスタッフが答えた。「脚、おねがいします。浮腫んでるものね、しんどいものね、あし…」

椅子に腰掛けるおばぁちゃんたちの足に目を落として見ると、たしかに甲と指の一本一本が丸みをおび、頼りなさげに、ゆかに着地していた。
「沢山働いてこられましたね、この足のお陰で」「わかるかい?そうだよ。でもね、このごろ、この足がフラフラして転びやすいんだ、こんなに太い足なのに」
「そうですか、悔しいですね、自分の足が言うことを聞いてくれなくて」
足首に、ウインターグリーンとラベンダーを滴下する。


「テレビて見た事があるよ。女優さんがこういうの、受けてたよ〜。羽二重の手だね、あんたの手は。長く生きてみれば、その先にはこんなに良いことがあった。先に死んでいった友達に教えてあげたいよ。苦労して、苦労しても、それでも生きてみれば、その先にはこんな幸せがまっているんだって…」


我がディサービスでアロママッサージを受けるたびに、見えない目で遠くを見つめながら、そうつぶやいていたイヨさんの顔が浮かぶ。

翌日は、岐阜羽島の市民会館で行われた「介護職よ、氷河期を生き残れ!」と題したセミナーに呼んで頂いた。
介護界のカリスマ、三好春樹氏が言った。
「自分たちの行う介護の質は、自分たちの前の世代に対する返礼に相応しいものになっているのだろうか?」
昔、氷河期を生き抜いてきたクロマニヨン人の特性は、芸術を大切にしたこと、母子を大切にしたこと、老人、亡くなった人を大切にしたこと…

自分たち介護職は、人類がこの地球に生き残った根拠を仕事にしているのだと。


私が介護職に足を踏み入れ、介護屋になるべく選んだ、たった一人の介護の教科書である三好春樹氏が言う言葉は、いつも太平洋から眺める。小さな灯台の光なのだ。

「自分たちの行う介護の質は、自分たちを産み育て生かし、ここまで導いてくれた先達たちへの、お礼にふさわしいものになっているのかい?」

なっているのかい?

なっているのかい?

いつも、師匠は行くべき方向を指し示して下さる。

「私の腕を一番先に取り、私の手をマッサージし、私をきれいにしてくださった事に、とても感謝しています。」

一昨日のまめ屋さんでの、ささやかなアロママッサージに対して、神様が囁いて下さった言葉。
小さな一人一人を大切にしなさい。誰にも気づかれない様な、小さな花を…
行くべき道が見えました。ありがとう、岐阜。ありがとう、DJコレナガ。

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