暴力おばさんの、ふくふく訪問物語②

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「ところで、あなたが元気にしたいと言っていた人は、
どの方だったの?」

アロママッサージをどの方にしますか?と聞いても、
ワタシタチを呼んでくれたはずの看護師さんは、
この方を見て欲しいとは、言わなかった。

きっと、言えなかったのだ。悪いと遠慮して。

冗談じゃないと思った。

何の為に遠くからはるばるやってきたのか?

何のためにあなたの上司は、あなたの言うことを信じて
ワタシタチを呼んだのか?

ここにいる人達を、幸せにするためでしょう?

笑って生きて、笑って死んでいってもらうためでしょう?

一体、何をやっているの?

あなたが気になっている方々の情報が欲しい。

明日、飛行機に乗る前に、
その方たちを自分の目で確かめに行きたい。

もう、死にゆくための準備に入っているのか、

まだまだ生きようとしているのか….

なぜ、食べようとしないのか、

なぜ、目を開かないのか?

自分の目で見て、自分の手で触れて見たかった。

「アロマテラピー講座」なんぞという、
洒落たものをやりに行きたかったわけじゃない。

なぜ、この方たちは部屋で寝ているのかと聞いてみた。

「起こしておいても、すぐに寝てしまうから」

それが答だった。

会ってみて、すぐに解った。

この方たちは、眠っているのではない。

もう、生きないと、生きたくないと言っているのだ。

自分の人生の最期に、自分の意図しない所で
最期まで暮らす事を決められてしまった現実。

見たくないと目をつむり、開きたくないと、口を結ぶ。

自らの心を殺し、魂を肉体から離し、感じない、思わない、
諦めた人生の最期に、怒りを握りしめているのだ。

施設暮らしが悪いわけではない。

在宅だけがいいわけでもない。

家族と暮らすことだけが素晴らしいわけでもなく、

この場の仲間たちと味わえるラストチャンスが、

自分達にもある現実に、

気づかせてあげるのが、介護職の真髄だ。

もう一度、生きてみようとこの人たちが思ってくれるには

どうしたらいいのか?

そのヒントが欲しくて、自分達を呼んだのではないのか?

座位が保てないと言うおばぁさんが、
元校長先生だったと聞いて、

校長椅子を用意してもらった
(実際にはドクターの診療チェア)

校長先生と何度も呼びかけ、不出来な生徒であった自分に
何か教えがほしいと相談を持ちかけながら、手足を擦った。

そこにはドテラのラベンダー、オレンジ

心を開くには、魂を呼び戻すには

これらのオイルの力が加わると早い。

うつむいて、ぎゅっと結んだ目がうっすらと空いた。

いったい、こいつらはどれほど不出来な生徒なのか、
見てみたいと思ったのだろう。

胃ろうをして、ご飯を殆ど食べないという方の部屋に行った。

「胃ろうで腹がイッパイだから食べたくないんじゃないの?」
といってみた。

この方の既往歴は?と聞いてみた。

「認知症と…」とナースが言ったので

「ええ〜!ボケてるって言ってますよ!
いいんですかぁ?そんな事言わせて!」

と、話し掛けると、無表情だったその人が笑った。

「起きてみようか?」という問いかけに頷いた。

介護シューズにゴミが溜まっていた。

「お金はイッパイあるんだから、ピンクの靴を買ってもらってね!」
と、話した。

この人にもう靴は要らないと家族が感じている事が、
伺えるような靴だった。

一日中、横になっているベッドに、ろくじろうのスタッフが寝てみた。

「つまらねぇ天井だなぁ!こんなもの眺めていてつまんないじゃん!」そう、悪たれをつくと、車いすに座りながら、

くりっとした目で、ふふふっと笑った。

おしっこが出ないという理由で入っているカテーテル。

こんな物が股に挟まっていたら、座りにくくてしょうがないよね。

「こんなものは、外せ」と、暴れるんだよ。

オシッコが出るには、寝てちゃダメだよね。

そう本人にハッパをかけながら、
腎臓のあたりに、レモンオイルでマッサージをした。
(ここは、柑橘の郷じゃないか…)

目が見えなくなって、全てを痛がり怖がると言う
オバァさんの部屋に入った。

起きようと言うと、痛いと騒ぐ。

「痛いのは、生きている証拠だよ。良かったじゃない。」
と話しかけながら、

怖かったら、32歳の青年の腰に思い切りしがみつけと手を誘導してみた。

「え!本当か」と、青年の腰におばあさんは顔を埋めた。

隙あれば、青年の股間を握らせてやろうかと思った。

ふくふくにもヒロシという青年が居るという、
毎日、その青年に抱きしめてもらうんだよと伝えてきた。

人生の最期に、男の子に毎日抱きしめてもらえる。

人生の最期に、毎日アロママッサージをしてもらえる。

人生の最期に、今日も何を食ってみようかと考える事ができる。

そしたら、きっと、人生の最期まで生きてみたいと
思わないはずがない。

そして、飛行機の時間を気にしながら、最期に言った。

「あんたがね、暗いんだよ。

笑うんだよ、嘘でもいいから笑うんだ。

そしてこう言うんだ。

「幸せだね、楽しいね、本当に幸せだね。」

ワタシタチを呼んだ看護師は、後ろを向いて涙を拭った。

本当は、あんたが一番欲しい言葉。

そんな事は、解っているさ。

でもね、あんたが言うんだよ、あんたが先頭切って

思い切り笑って言葉にするんだ。

「生きるって、まんざら悪いことばかりじゃないね」って。

淋しいから、まだ死なないでねって。

同じテーブルに座っていたばぁちゃんたちに、

この子をお願いしますと、

泣き虫だから勇気つけてあげてくださいと

お願いして、ふくふくを後にした。

お年寄りたちが、大きく手を振って見送ってくれた。
(つづきます)

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